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横浜女が滋賀で主婦する

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「こうふく みどりの/西加奈子」感想 こわい、こわい、こわい

あれこれの感想文 あれこれの感想文-本

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前回の「きりこについて」を返却したとき、続けて借りてきた西加奈子さん「こうふく みどりの」の感想です。

 

2008年に出版されてますし、ネタバレ込みですすめます。

読み進めるうちに「だんだんつながってぞくりとする」要素もある本なので、

興味ある!読むかも!という人は読んでから

「おおたはどう思ったんかなー」と答え合わせ的に?お越しいただいた方が楽しめると思います。

 

貸出中のため棚になくて、本の基本情報を調べるまで知らなかったのですが

「こうふく あかの」とセットみたいですね。

でも特に内容の関連性はないらしいので、そちらは未読のまま

「みどりの」単体で感想を書いておきます。

 

 

(「きりこについて」の感想はこちら) 

 

あらすじと、本書の構造

 

主な語り手は、中学生の「緑」ちゃん。

 

家族構成は、祖母・母・従姉とその幼い娘。

家には女しかいない。

 

祖父は戦争には行かなかったけれど、終戦のどさくさにまぎれて出奔。

父親は先に「よその家のお父さん」だったから、生活費を送金してくれるだけ。

従姉の藍ちゃんはまだ戸籍上、旦那と別れていないけど、DV野郎だったから逃げてきた。

その娘の桃ちゃんは4歳になるけど、全然しゃべらない、なんの意思表示もない、どこでもおしっこを漏らす。

飼ってる猫2匹も、犬も、ぜんぶメス。

 

大阪の下町(と言えばいいのか?あまり都会でも、お上品でもなさそうな地域。語りも台詞もすべて大阪弁)を舞台に、

主には緑のまわりの出来事が語られる。

美人でモテモテの友達・明日香のこととか。

気になる転校生・コジマケンのことも。

 

でも途中途中に「あれ、違うな?」という、長くない別視点の章が挿入される。

太字になるから「変わったこと」は誰でも分かる親切設計。

 

酔った誰かを相手に独白する体だったり、手紙だったり、日記だったり。

なんの説明もなく唐突に切り替わるそれらは、(もちろん予感はありつつも)

誰の語り(しかも複数人)なのか、最後の方まで読まないと分からないようになってる。

 

わたしの場合、この小説をのちのち思い出すとき、太字のページのことばかりになると思う。

 

毛色の違う語り

 

太字ページで特に、毛色の変わる独白があります。

二回だけ登場する語り手。

 

初回は「誰にも言うてないことですねん」で始まる文章。

自分が7歳のときの思い出話。

和歌山の、海が近い小さな村でのこと。

 

兄の友人が、よくできた人だった。勉強も、運動も。

家に遊びに来ることもあって、うちの両親も含めて村のみんなが彼を好きだった。

独り占めしたかった。

 

でもその人には弟がいて、一生世話をするつもりだと言っていた。

いつも鼻水たらして、にやにやして、心が二歳か三歳のままの弟。

きっとその弟がいる限り、その人はお嫁さんをもらわないだろう。

 

海は、女やと思います。何か決意したとき、よこしまな気持ちになったとき、哀しくて泣いてるとき、心の中が、海と、おんなじ音しますねん。ぞうぞう、ぞうぞう。すっかり乾ききってるはずやのに、じくじくと湿っぽくて、まわりの音を、全部とってしまう。海は、女やと思います。

 

あ、これ、やっちゃうな。

そんな予感で、また緑の日常の話に戻る。

だいぶ後の方になって、やっと「和歌山の村の子」の続きが語られます。

 

「海が近い」村だから。

 

ええ、押したんです。あの子を。

 

そのとき花摘みをして遊んでいたはずの彼女の妹は、それから目を合わせてくれなくなった。

海が見える丸太に残された赤い花。

 

その後、自分は16歳でまんまと彼を手に入れたこと。

生まれた長男に、彼は弟と同じ名前をつけたこと。

自分はその名を平気で呼べること。

妹も彼のことが好きだったようで「通じ合っていた」らしいこと、「嫉妬にかられて、言うてまいよった」こと。

妹はヒロシマで死んだこと。

兵隊に落ちたけど早くに死にたがっていた彼は、戦争のどさくさでいなくなってしまったこと。

いろいろ、たんたんと、語られます。

 

 

緑のおばあちゃんは「赤がこわい」と、話しています。

 

緑のおじさんが短命であったことも、

よそから「あの家は男運が悪い」と言われることも、

桃ちゃんがしゃべらないのも、すべてが因果のようで。

おそろしい話なのです。

 

男運が悪いっていうかだらしない

 

おばあちゃんの話はまあ、置いといて、

おかあさんは既婚者とわかっている男性と関係を持って子どもをつくるし

従姉は離婚もできてないし桃ちゃんもいるのに、中学生の緑の同級生に手をつけるし

もう無茶苦茶です。

 

誰も働いてなくて、おばあちゃんの年金と、

緑の父親から払われるお金で暮らしてる。

 

お母さんは寝転がりながら煙草を吸ってるし、

25歳の従姉は、甘いにおいをさせながら、どんどん太っていく。

 

めちゃくちゃだ。

めちゃくちゃだ…。

 

近所のお嫁さんの話

 

おばあちゃんとよくおしゃべりに来ていた、ご近所の森元さん、の嫁が

最後の方で初登場。

 

赤ちゃんを産んだばかりの嫁と、緑がおしゃべりするシーンがあります。

 

小さい体で巨大児を早産した嫁は、今もちょっと体調不良。

子どもを産むのって大変なんですか、と聞く緑に

痛いし大変、どんな子が生まれるか、将来はどんな職業に就くか、いろんな心配もする。

それでも、子どもを産んだら「全部持ってかれる」という話をしてくれます。

 

ぶさいくでも馬鹿でもちゃんと育たなくてもなんでもいい、自分より先に死なないでいてくれたらそれでいい。

 

歪んだ家族、歪んだ人間関係がいっぱいでてくるんですけど

「これだけ」は確かであってほしいなと思います。

緑にこの話をしてくれて、ありがとうって感じ。

腹を痛めて子供を産む役目を持った、女ばかりの家の緑だからこそ。

この家では自分がいちばんフツウで、誰も家族の病気や将来の心配をしてない、と不満に思う緑にこそ。

 

緑色の目

 

緑が、おばあちゃんの片目が緑色であることに気づきます。

「おばあちゃんの右目、もう見えないの?」と聞くシーンがある。

 

緑内障…?と思ったけど

(目が緑色になる病気じゃないけど、青白くにごっているのが緑色に見えなくもない…らしい。)

 

さいごのさいご、おばあちゃんが死んだあと、

緑の片目が宝石みたいにきれいな緑色だ、と語られる文章があるので

これはおばあちゃんの特殊能力がうつったことをあらわすのかな?なんて。

 

おばあちゃんは、ほんのすこーし先の未来が、視えることがあるんです。

(きりこもそうだったし、西さんこういう設定好きなのかな?)

 

どうかなあ。確認しようはない描かれ方だけれども。

少なくとも、物理的に瞳の色がグリーンになる遺伝子は入ってないはず。

 

読後感

 

読後感は、悪くはないけど、すっきりハッピー!というわけでもない。

それこそ、海のぞうぞういう音が聞こえてくるような感じ。

 

ちなみに主となる緑の時代は、アントニオ猪木がぎりぎり現役(48歳)のときみたいです。

プロレスの話もちょこちょこ出てくる。

猪木さんは現在74歳だから、そもそも25年以上前の時代感ですね。

 

おばあちゃんは死んじゃったし、

緑は高校にはいかないだろうし、

お母さんは老けた実の父親とようやく結婚するのかもしれないけれど、

藍ちゃんは年下の恋人とは一緒になりっこないだろう。

桃ちゃんはしゃべらない。

 

いつかここに、大根突っ込む人が、現れるんやろか、と考えてみたけど、気色悪いから、やめた。

 

ぞうぞう。ぞうぞう。海は女やと思います。

 

客観的に見ると過去も未来も全部が重たいけれど、

藍ちゃんの作る料理はおいしくて、緑の家はそのお料理のいいにおいにいつも包まれてる。

そんな話です。

だいじなところも書いてしまったけれど、書いてない部分もたくさんあるので、

興味がわいたら読んでみてください。

 

 

 

ではね |ω°)ノ

 

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