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横浜女が滋賀で主婦する

日常系雑記ブログ。壁打ちスタイルでやってます。

「きりこについて/西加奈子」感想 容れ物と中身と歴史

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図書館に行ったら、ふらふらと徘徊して、目についたもの、たまたま手に取ったものを借りることが多い。

でもこの本は、過去のわたしが残したスマホのホーム画面のToDoウィジェットにメモされていた。

おそらく前回訪れた時に、3冊借りたからもういいやと思ったところで発見し

「次回はこれだ!」と決めたのではないかと思う。忘れずにメモしてよかった。

 

西加奈子さんの名前は、アメトークの読書芸人の回で、なんとなく認識していた。

著書を読むのは初めて。

とてもいい本だったので、思うままに感想を綴ります。

2009年に刊行されているそうなので、ネタバレについてはあまり気にせず進みます。

 

 

あらすじ

 

本の背表紙から引用。

 

小学校の体育館裏で、きりこが見つけた黒猫ラムセス2世はとても賢くて、大きくなるにつれ人の言葉を覚えていった。

両親の愛情を浴びて育ったきりこだったけれど、5年生の時、好きな男の子に「ぶす」と言われ、強いショックを受ける。悩んで引きこもる日々。

やがて、きりこはラムセス2世に励まされ、外に出る決心をする。

きりこが見つけた世の中でいちばん大切なこととは?

 

…正直、読み終わったあとこの↑あらすじを見返すと「まぁ、間違ってないけど…」という感じ。

このあらすじよりも、とにかく1ページ目を開いて1行目を読んでみるほうが、手に取った人の興味をそそると思う。

はじまりは、こう。

 

きりこは、ぶすである。

 

ぶす、が太字で強調されているのも本の通り。

本の中では、誰かの台詞であれ、説明文であれ、とにかく「ぶす」というワードは終始太字で強調される。

もちろん、ラノベ的にあれこれ太字にしたり空白を多用しているわけではない。ほかの個所に装飾は一切ない。

とにかく、容赦なく、ぶすが強調され、物語の始まりには主人公のきりこがいかにぶすであるかの説明が丁寧に行われる。

 

可愛い子と自分のちがいに気づくとき

 

きりこと同じようにわたしも、家族から可愛い可愛いと甘いシャワーを浴びせられて育った。

ところがやっぱり、自分と、世間一般にちやほやされる女の子たちの差に、何か違いがあることはやがて気がつくことになる。

特に中高の女子校生活を終えて、大学に入ってみると、男の子たちのなんと正直な事か。

きりこのように、初対面の人に衝撃を与えたり、すれ違いざまに「ぶす」とくすくすされるほどではないけれど(そのために、より気が付くのが遅れたわけだけれど)

「違うんだ!」と、思い知る日はやってくる。

 

もちろん、服を変えてみたり、髪型やお化粧を変えてみたり、いろいろ「世間の可愛い基準」に寄せていく方法はあるわけだけれど、そういう話はここでは無視する。

ここで問題にするのは、素材と心だ。

 

前半は、とにかくきりこのぶす表現が面白いのと、

(入園式の集合写真の顔がバラのよう、というエピソードが出てくる。花のように美しいという比喩ではなく、顔のしわや肉厚がバラの花びらにそっくりであると)

 

気が強くリーダーシップにすぐれたきりこが女子たちの中心にいることも興味深く読んだ。

(いわく、子どもはいつも「酔っぱらっている状態と同じ」だから洗脳しやすいそうだ。うん〇がどうとか言ってげらげら笑えるのは、つまり酔っ払いと同じだと)

 

そして、あらすじにもあった通り5年生で初恋の人に初めて「ぶす」と言われ、

やがてみんなの酔いと洗脳が醒める。

中学に入ってあらゆるヒエラルキーが目に見える形となったころ、

きりこはようやく「可愛くてモテるすずこちゃん」と自分の容姿が、

あまりにかけ離れているから自分は「ぶす」なんだと気がつく。

 

夢と猫のファンタジー

 

この話には、ちょっとしたファンタジーも含まれている。

きりこの飼い猫「ラムセス2世」はとっても賢いのだけど、人語を解するし、世界のあらゆることを「分かって」いる。

(例えば「世界は、肉球より、まるい!」とか。)

 

猫は夢を見るために日々眠りに励んでおり、やがて睡眠障害で引きこもりになったきりこも予知夢を見始める。

そして夢をきっかけに、外に出る。

 

きりこが美男美女家系の先祖代々から、唯一の欠点(美しい全体に隙を生み出すチャームポイント)をちょっとずつもらった特別なぶすであることを除いて、一般的日本のくらしを描いていた中に

ときおりこういった非現実的要素がほうりこまれる。

 

でも、わたしは猫ちゃんたちが非常に賢い動物であることを「分かって」いるし、

予知夢は見ないがいろんな夢をよく見ているので、

予知夢ぐらいあってもいいじゃないかと物語の進行に疑問を感じることはなかった。

 

きりこは、悲しんでいる人の夢をよく見る。

それはのちにAV女優になる「ちせちゃん」だったり、カルト宗教にのめり込んだ「元田さん」だったり、いろいろだ。

少女時代を描いた前半部から一転、後半は悲しみから立ち上がる大人の話。

 

容れ物と中身と歴史

 

生理が始まってどうとか、レイプがどうとかAV女優がどうとか、アダルトな記述もあるので手放しに勧められないかもしれないけれど

生々しい描写はないし、中高生くらいが読んでもいい気がする。

 

あらすじに書いてある「きりこが見つけた世の中で一番大切なこととは?」のアンサーはとても分かりやすいし、分かったつもりでいても改めてこうはっきり言われると大人でもハッとする感じがする。

 

「うちは、容れ物も、中身も込みで、うち、なんやな。」

「今まで、うちが経験してきたうちの人生すべてで、うち、なんやな!」

 

終盤、きりこはこう叫ぶ。

 

中盤にも「自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらん」というストレートなきりこのことばが出てくるのだけど、これはさらに上を行く。

(だからきりこは、ぶすのくせにと言われても、自分の着たいお姫さまのようなドレスを着る)

 

この気づきのシーンがあるから、ただたんに「きりこはぶすだけど容姿は気にせず胸を張って生きます」で終わらない。

 

さっきの容れ物と中身…の台詞は、きりこが初恋の「こうた君」が大人になって変わってしまった姿を見た後に出てくるもの。

 

自分だって、こうた君の容れ物にこだわっていた。変わった姿にがっかりした。

「人間には中身しかない」と思ってたけど、違った。

 

容れ物と中身と歴史と、全部があって、その人を作り上げている。今がある。

 

そう気づいたきりこを見て、ラムセス2世は「それでこそ、わが、きりこだ!」と思う。

このシーンはとっても爽快。

 

そしてとりあえず、死ぬまで生きようと思う。

 

読みやすいよ

 

このページで唐突に引用を切り貼りして伝えても

「たいした内容じゃないじゃん、大袈裟だなぁ」と思われるだけかもしれないけれど

読後は妙な納得と、爽快さと、安心感がある。

おすすめできる本。

 

文庫で200ページと、長編としては比較的短いので

普段本を読まない人でも読みやすいのではなかろうか。

文章も、小難しくない。(これにはちょっとした訳もある。)

 

そして、「ぶす」と言われるきりこをはじめ悲しい経験をしてきた人は登場するけれど

目も当てられないような不幸もない。

救いがある。

ハッピーエンドだから、安心してほしい。

 

猫小説としても面白い。

世界は、肉球よりも、まるい。

 

 

 

ではね |ω°)ノ

 

(ほかの西さんの感想文はこちら) 

 

(読書感想文の一覧はこちら)

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